日医工は復活できるのか?

薬剤師

日医工はどうなるのか

日医工といえば沢井製薬、東和薬品と並んで日本国内のジェネリック医薬品大手の一角でした。ところが2021年の3月に製造工程での法令違反が発覚、行政処分により一部の工場の操業を停止。2022年6月現在においても製品の出荷は断続的に止まっており、5月には事業再生ADR手続きを申請・受理されています。

この日医工が復活することはあるのか?見事に復活したら暴落している株価は数倍になるかも……と夢が広がりそうですが、薬局で働いている人間の立場から見るとかなり厳しいのではないかと思います。私は経営や投資の専門家ではありませんが、調剤薬局にいる人間の感覚としてどうなのかということを書いてみましたので、興味がある方はご覧ください。

薬局がジェネリックの仕組み

日医工は製薬メーカーなので、製造委託を受けない限りは病院や薬局に薬を販売することで利益を得る必要があります。
病院は、通常は1つの成分規格に対して1メーカーしか採用しません。2メーカー入れるくらいなら、1メーカーに絞って価格交渉したほうがいいですからね。
調剤薬局では医師が発行した処方箋に従って調剤が行われるのですが、先発医薬品は任意の後発医薬品に変更できます。そして、後発医薬品も別の後発医薬品に変更できます。つまり、後発医薬品は1メーカー持っていれば対応できます。(変更不可指示や保険適応などで一部に例外はありますが)
要するに、病院も調剤薬局も、後発医薬品は一つの成分規格に対して1つのメーカーを在庫しておけば対応でき、普通は2つめのメーカーを入れることはないということです。

調剤薬局の現場としては患者さんが製品を使い始めてから別のメーカーに切り替えるには合理的な説明をする必要がありますし、不安を持つ方もいるためなるべくやりたくありません。このため、メーカーとしては新しいジェネリックが発売される際、薬局に一番最初に自社の製品を選択してもらうことが大事ということになります。

どのメーカーを選ぶかは、メーカーや製品の信頼性、大きさ、味、納入時の値引き率などで決定されています。チェーン薬局だと本社で一括決定ということも多いですね。近所のクリニックの医師の意向というケースもあります。

こういう事情ですので、日医工の生産能力が以前と同じに戻ったとしても、それが売れるかどうかは別の話になります。

次に、過去の例ではどうだったかを見ていきましょう。

過去の例 大洋薬品工業

過去に同様のケースで記憶にあるのは、2010年にジェネリック製造で国内3番手だった大洋薬品工業が医薬品の配合量をミスして岐阜県の工場が操業停止になった事例です。このケースでは工場はすぐに操業再開しましたが、肝心の病院、調剤薬局で使用中止する店舗が続出。2011年にはイスラエルのテバ社に買収されることになりました。

大洋薬品工業が作っていた薬はアムロジピン錠「タイヨー」など「タイヨー」の屋号で販売されており当時はそれなりのシェア率でしたが、現在は殆ど使われていません。一部の製品は「テバ」という屋号に名称変更して販売継続していますが、多くの品目が製造中止になりました。やはり、悪いイメージがついてしまい販売数が回復しなかったのではないかと思います。

自分で飲むことを考えると、他の選択肢もあるのにトラブルがあったメーカーの薬が出てきたら嫌ですよね?薬局としてもわざわざそういうメーカーは選びません。

「タイヨー」を「テバ」の名前に変更したのは有効だったかもしれません。私ももう、どの薬が大洋薬品工業の薬だったのか区別できませんし、大半の人は太陽薬品工業⇒テバの事情は知らないので患者さんから嫌がられることも少ないです。
まあテバはテバで近年になっても流通が安定しないので、薬局としてはあまりイメージ良くないんですが……。

最近の例 小林化工

2020年、小林化工の工場で睡眠剤の成分が別の薬剤に混入する事件が発生、操業停止になりました。こちらもかなりの大手でしたが状況は大洋薬品工業よりもひどく、工場は操業を再開できないまま設備と従業員だけ沢井製薬に身売りに。製造していた小林化工の製品は販売中止になりました。

ここで大事なのは、沢井は小林化工の製品だけは引き継がなかったということです。大洋薬品工業のときと同じように、ブランドイメージが落ちた屋号(小林化工の場合は「KN」)の医薬品はいらないということでしょう。製品も引き継いでしまうと沢井のイメージに影響するということも警戒したのかもしれません。

日医工はどうなるのか

日医工に関しては、富山県の工場を稼働させたり止められたりしていて、よくわかりません。普通、だめなポイントを潰してから操業再開すると思うんですが、なぜ何度も止められるのか謎です。そんなに駄目なんでしょうか……。

ただ日医工の場合は規模が大きく、止まってない工場もあるので普通に動いてる製品も多いです。しかも後発品が手に入らない状況が続いているため、出荷したものはだいたい売れてるはずです。このため、現状では生産能力が回復すれば売上も改善するというイメージの人もいるかもしれません。

四季報によると23年には新製品の発売効果と工場の再稼働で黒字化見通しと書いてあるんですが……いやそんなに期待どおりにはいかないんじゃないでしょうか。将来的な見通しは良くないように思います。

薬局からのイメージが悪すぎる

現在発生している後発医薬品の流通不全は医療業界には超迷惑な話で、ほぼ100%の関係者がいい加減にしてほしいと怒っていると思います。そして、大部分の人がこの状況は日医工のせいだと考えているでしょう。実際には小林化工など他社の影響もありますし対応がずさんな国にも責任があると思いますが、日医工のイメージはとにかく悪いです。

日医工の屋号では売れない

大洋薬品工業や小林化工の例からわかるように、ブランドイメージの悪化は採用可否にかなりの影響があります。もし選ぶとしたら、日医工以外に選択肢がない(日医工しか売ってない)か、値引き率が高い場合でしょう。値引きしたら日医工の利益は減るため、日医工としては不利です。
日医工の製品を採用しても、日医工が倒産して販売中止になればまた別のメーカーを採用しないといけないので、そういう意味でも日医工は採用したくありません。

現在は日医工の製品も品薄できちんと消費されているように見えますが、それは後発品が全体的に不足しているからであり、積極的に選んでいるケースはほとんどないと思います。

新製品は売れるのか

現在の見通しでは新製品効果で売上が回復ということになっているようですが、利益が見込める新製品の場合は他のメーカーも充分な量を出荷してくると考えられ、品薄だから日医工を採用するというケースは発生しないでしょう。こうなると日医工が採用されるためには値引き率を上げるしかなくなり、利益が圧迫されてしまいます。少なくとも、以前のような勢いでは利益は出せないでしょう。

既存品からの撤退はプラスか

薬価というのは2年ごと、近年では毎年のように引き下げられていますが、あまりにも激しく下げるせいで多くのジェネリック医薬品が最低薬価付近になってしまい、作っても利益にならない状態になっているようです。なんらかの理由をつけて日医工が低薬価の薬の製造を中止し製造能力を高薬価の薬に集中、さらに新製品を採用してもらえるようになれば、利益という点では復活できるかもしれません。そんな露骨なことをすれば他のメーカーに恨まれそうですが……。

まとめ

これまで書いてきたように日医工の場合、工場の操業再開は最初の一歩であり、製造能力が回復しても病院や薬局に選んでもらわなければ売上が回復しません。ここをどうにかできるかが課題になるでしょう。

結局、日医工再生の最大の障害は日医工の名前ということになり、これは現在の日医工のままでは乗り越えられないんじゃないかと思います。社名変えればいけるかもしれません?

安い価格帯の薬はどこのメーカーも作りたくないので他のメーカーは日医工に復活してほしいようですが、復活しても日医工以外のメーカーの争奪戦で出荷調整とかいう現象が発生しそうな気がしています。
後発品供給の混乱は本当にうんざりする状況なので、個人的には日医工はしぶとく残すよりは整理して製造設備を他社に譲り渡し、現在の混乱を鎮めてほしいです。ただ、譲渡先には供給責任がついて回るためどこも買いたがらないかな……。買ったメーカーは利益率下がりそうです。

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